桜酒
「表と裏と同じ画家が描いたものですかね」直感だけでそう町氏に聞いた。「さすがに、現職の画家ですなおっしゃる通り、時代は同じでも違う画家です」町氏は図星をさされたことにあわてる様子もなく、さらりと答えた。「すると、二枚の絵をこういう具合に表装したのは町先生ですね」七助が勘のいいところを見せた。それには町氏はわざと答えなかった。花見とはこの全裸美人の桜花の刺青を鑑賞することだったのか、と私はふと考えた。しかし、すぐには口に出さなかった。まだなにか仕掛けがありそうな気がしたからである。裏側の裸体の方を出したままで、町氏は座にもどった。
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「こりゃすごいや。美人の陰毛を眺めながら、酒盛りという図ですな」七助が、ほとんどこちらが考えた通りの科白を言った。仲居が酒と料理を運んで来た。各自の前につき出し、さし身が並べられ、ふたをした茶碗が置かれた。盃をふせたままになっている。「ではお酌を」仲居が徳利を手に持った。こちらが盃を手にすると仲居が言った。「茶碗の方でどうぞ」盃を置き、茶碗のふたをとった。仲居が酒をつぐ。と、底の方から桜の花片が浮かび上がってきたのだ。甘い化粧のような匂いが鼻にふわっとくる。「これは…」驚きの声をあげると、「桜酒ですよ」と町氏が言った。